Four seasons


冬のあいつは、きれいだ。

初めて会ったのも冬。
当時の俺はとにかくやんちゃで粗野なガキだったが、それでも、しんしんと雪の降りそぼる空を見上げる
あいつを見た時には、「ロマンチック」とは、こういうことを指すのだろうなあと思った。

冬のあいつには忘れられない思い出がある。

『岬、この辺りは春になるとラベンダーって花でいっぱいになるんだ!すごいんだぜ!
 絶対、お前好きそうだから、連れて来てやるからな!』
幼すぎて、自分の周りは明日も数カ月後も、数年後も変わることはないと思っていた俺が岬に言った言葉だ。
春まで、あいつはここにいないのに…。
そんなこと、考え付かずにいた。
岬は、少し困ったような、曖昧な微笑みを残しただけだった。

それから数日後、岬は転校した。誰にもサヨナラを言わずに。
春、俺はひとりラベンダー畑に佇み、自分の中の寂しさを、岬への怒りに摺り替えていた。
でも、今はわかる。
「サヨナラ」を言えなかったあいつの弱さを。
もし今、あの頃の小さなあいつに会えるとしたら、俺はあいつを抱き締めて
「お前を忘れたりしないから」
と言ってやりたい。

夏のあいつは厳しい。
敵陣を睨み付け、勝利を確信し、仲間と自分を強く信じた目。
あいつを公式戦で戦ったことはないけれど、あの目をみるとゾクリとしたものだ。

この夏、あいつと再会できた。
夏のあいつを見るのは2度目。小学校の全国大会で会った時はひたすら厳しい目をしていた。
昨日、皆と再会したあいつは珍しくすごくはしゃいでいて嬉しそうで−−−−年相応に子供っぽいあいつを
初めて見られたことが、俺は嬉しかった。

岬はいつでも俺の心の片隅にちょこんと居て、どんな時にも俺の心のその部分だけはきれいに光っている。
これから先もずっと居続けるだろう。
少し寂しそうな表情で曖昧に微笑む、幼いあいつ。
この部分は誰にも見せない、触らせない。−−−ー日向にだって。

春になったらあいつをラベンダー畑に連れ出そう。
秋になったらりんどうの咲き誇る丘へ。
春と、秋のあいつも見たいから。


Fin.




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