in the bedroom


岬がシャワーを終えると、若林がベッドですやすやと寝息を立てていた。
「待ってるぞ♪なんて言ってたくせに…。」
まあいつものことか、と付け加え、岬は冷蔵庫からビールを1本取り出すと
一気に飲み干した。

「今日から1ヶ月は、岬君強化月間だ。」
若林は4月5日の朝、そう言って満足そうに笑ったのだ。
岬の誕生日まで1ヶ月間、週に一度はフランスの岬のもとまで来ると言った。
そう言われて嬉しくないこともなかったが、若林とて自分と同じプロの選手。
それが容易くないことなど、岬には分っていた。
けれど、若林はどうにかこうにかスケジュールを調整し、まめに来るのだ。
相手が自分にどれだけの労力を払ってくれるかで愛情を計ろうとする女たちを、
岬は少し軽蔑していたのだが、こういうのも、たまには悪くないなと感じていた。

今日の昼過ぎに来た若林は、明日の夕方には出発しなくてはならない。
岬は気持ち良さそうに眠る若林の横に潜り込み、寝顔を堪能しようとした。
太い眉毛、短いけれど意外に密集した睫毛、がっしりとした鼻筋に
大きめの形良い唇。
どれもこれも見なれた、愛しいパーツ。
岬はいつものようにそれらを人さし指でなぞり、鼻を甘噛みし、唇を舌でなぞった。
若林は少し、うーんと言ったが、起きる気配はない。
なんだか楽しくなってきた岬は、今度は耳を優しく噛んだ。
若林はいやいやをするように首をゆっくりと左右に振った。

次に岬は、若林の大切なところに手をあててみた。
先ほどの愛撫に、そこだけが反応していた。
むくむくと悪戯心の湧いてきた岬はトランクスの中に手を入れ、優しく撫でた。
冷えていた自分の手が、そこの熱によってあっという間に温められる。
(もっと、いやらしいことをしてやろうか−−−)
手に伝わった熱は、一気に岬の全身に廻り、体温が沸点を迎え、音を立てていた。
これを、口に含んだらどうなるだろう。
それを岬は、知っている。
そうする時、若林から時おり洩れる甘い、満足気な溜息。
それが岬は大好きだった。
あれを、聞きたいなあ。岬はそう思った。
でも…。
実を言うと、岬は自らそうしたことはなかった。
いつも、若林に望まれ、命じられた時にしかしたことがなかったのである。
恥ずかしいのではない。
自分が、能動的に働くことに若林が拒絶しないか、それが気になっていた。

「随分と、思わせぶりなんだな。」

眠っていると思っていた若林が、いつの間にか起きていた。
その顔は全てを受け容れるかのように微笑んでいた。

岬は、自らの欲望に忠実に従うことにした。

甘美な溜息を聞きながら岬はそっと若林の顔を見てみた。
その溜息とは裏腹に、少し苦しそうな顔をしていた。
セックスの快感は、天国で罰を受けるようなものかもしれない。
何かの小説で読んだ、そんな一節が岬の脳裏を掠める。

岬の二の腕を掴む若林の指が強く食い込む。
この痛みと、若林の快感が比例しているのだろう。
そう思った途端、岬に強烈な快感が走った。


Fin.



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