Belong to You


寝ている若林君の肩に顔を置いて、反対側の景色を見てみる。
彼の筋肉がなだらかな曲線を描き、その向こうにもう一方の肩が見える。
僕は、この景色が大好き。
はじめて彼と夜を過ごした時、ほんとはちょっぴり後悔したのだけれど
この景色に気付いた瞬間、彼に選ばれた、そして彼を選びとった幸せをかみしめた。
彼の胸が呼吸に合わせて上下する。安らかに眠っているみたい。
そんな当たり前のことが幸せだと思える僕は、なんて幸せなんだろう。

Merry Christmas

クリスマスの夜、僕達はこうして二人で過ごす。3回めの、クリスマス。

ねぇ、若林君、僕、すごいことに気付いたんだよ。
この前、ちょっと物騒だけれど、君が亡くなってしまう夢を見たんだ。
それで僕、泣くんだけれど、何を悲しんで泣いたと思う?
君が、若くして亡くなってしまったこと。
やりたいことを成し遂げる前に終わってしまった君の人生を。
先立たれて、ひとり残される僕を思って、じゃなかった。
目が覚めてからもしばらく、不安だった。本当にそうなってしまったらどうしようって。
君に何かあったらどうしようって。
嫉妬なんかをはるかに超えた不安、君は分かるかな。
僕は、君を満足させたい。いつも君には、幸せでいて欲しい。
僕は、いつの間にか自分自身よりも君のことを愛しいと思うようになっていたみたい。

同時に、自分が死ぬってことも恐くなった。
きっと君は、僕を失ったら悲しむだろう?僕は、君を、悲しませたくない。
だから、僕はもう勝手に死ぬこともできないんだ。
僕は自由でいるのが一番って思っていたけど、こんな幸せな足枷ならあってもいいって
思えるんだよ。
僕の生活にはもう、どうでもいい部分はなくなった。ちゃんとしなくちゃ。
君を幸せにする為に。

君と恋に落ちた当初は嫌われたらどうしようとか今よりもっと好きになって欲しいとか、
そんなことばかり考えていた。
そういう不安は甘美なもので、それはそれで悪くはなかった。
だけど今僕は、ただただ君が健やかに、毎日を楽しく過ごしてくれればいいって、
そう思うんだ。
僕の前から居なくなってしまうとしても、君に他に好きな人ができたとか、そんな、
君にとって幸せなことだったらいいって、思えるんだよ。

きっと君は「絶対、そんなことはない」って言うよね。
君はよく「絶対」とか「ずっと」って言うけど、僕、昔はその言葉が大嫌いだった。
だってそれは、誰が保証してくれるの?それを裏切られた時の悲しみと、
僕はどう向き合えばいいの?
だけど、君の口から発せられるその言葉は今、僕の耳にとっても心地よく響くんだ。
「今」君がそう思ってくれてるってことが、僕にはとても嬉しい。
だって、そう言ってくれる限り、君の描く未来に僕の姿があるってことだろう?

「絶対」「ずっと」
この言葉に対して、いじけた考えを持っていた僕をこんな気持ちさせてくれて、
ありがとう。

君と付合ってると、君がいかに愛情に対して素直かってことが分かるよ。
僕はそんな君を、とても誇りに思っている。

「みさき?起きてたのか?」
「うん、君を見てた。」
「………俺を?自分見てた方が目の保養になるぞ。」
「そんなことないよ。よくぞここまで健やかに、大きく育ってくれてありがとうって
思ってた。」
穏やかに、微笑む君。
出逢った頃はこんな顔を見られるようなるなんて思ってなかった。
子供の頃の君は育ちの良さを隠すかのように、いつもムっとしていて、こと、
僕に対して冷たかったから。
『もう会えないと思うから言うけど、俺は、お前が、好きだった』
小学6年の夏、決勝戦の後に君は僕に、そう言った。僕に返事させてくれなかったよね。
だから15の時、僕は君に会いにいったんだ。
それなのに君は僕に好きだって言ったことなんてすっかり忘れている様子で、僕はとてもがっかりしたよ。
でも、結局若林君は僕を選び、僕も喜んで君の腕をとった。

「若林君、手、つなご?」
「ん?どうぞ」
あったかくて、大きな手。
君のぬくもりは僕を十分に暖めてくれ、僕のぬくもりは君に向かって流れる。
僕達の手は、いつも互いに繋がっている。
僕は君の為に片手を使い、同時に君は僕の為に片手を使っている。
僕はもう、孤独じゃない。
どこを探したって、僕の中に僕だけのものっていう部分は、もうないんだ。

「なあ、みさき」
「何?」
「俺、今、すごく幸せなんだけど。」
「うん、僕も。」
「なあ、みさき」
「何?」
「幸福を同時に味わえる、そんな相手に会えたことって奇跡に近いよな。」
「ふふふ」
「なんだよ、何がおかしいんだよ」
君は少し拗ねたような顔をした。ごめんね。
だって、ちょうど僕もそう思っていたから。
ほんとに君は僕で、僕は君なんだなって、嬉しくって。
神様、どの神様でもいい。本当にありがとう。

その日、僕らは手をつないで眠った。
君は、僕に。僕は、君に所属している、そう、感じながら。





Fin.



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