euphoria



秋は、好きじゃない。
何かが終わっていく感じがするから。

肘をついた姿勢でスターバックスの窓から、そろそろ色付きだした街路樹を見ながら
三杉がそう言った。
お互い忙しいスケジュールの合間を縫っての、つかの間の二人の時間。
俺たちはそうと示し合わさずとも、いつも楽しいことだけを話し、愉快で快適な時間を
過ごすことに心を砕いていた。
そんな中、珍しく三杉がそんなことを言ったのだ。

こいつ、何か、まいってるな。。。

俺は、すぐにピンときた。

さて、俺は、我ながら「相談役」には向いていないと思う。
以前、女の子から言われたことがあるのだ。
「松山くんて、今言って欲しいことじゃなくて、今、一番言われたくないことを
 言うのね。・・・耳に優しいことだけを言って欲しい時って、あるでしょ?」
ずいぶん勝手なことを言うものだと、その時は心の中で腹が立ったのだが、それも
一理あるなと思う時もある。
が、俺にはそれができない。
で、ただ単に聞いていると、「冷たい人」と言われる。どうすりゃいいんだ?

そんなことを一瞬のうちに考えて、三杉のことを横目でちらっと見た。
いつものように、端正で、相変わらず何を考えているのか分からない無表情な顔をしている。
何もかも、俺とは真逆の三杉。
それでいて、ひどく似ているところもある俺たち。
そんな似ているところを見つける度、俺は心底嬉しくて、自分の持てる目一杯の語彙を
フル活用して、三杉にそれを伝える。
微笑みながら黙って聞いている三杉は、いつも最後に
「君のそういうところ、好きだよ。」
そう言ってくれるのだ。
その言葉は俺にとって飴玉のように甘くて、心の中で何度も何度も転がす。

「何か、悩んでるなら言えよ。」
「えっ?」
そう言った俺を、三杉はほんとに意外そうな顔で見つめた。
「なんで、僕が悩んでるって思った?」
「・・・いや、普段言わねえようなことをいきなり言うから、さ。」
「秋が嫌いって?」
「うん。」
三杉は、俺の瞳をしばらくじぃっと見つめていた。

「やっぱり、今この瞬間、好きになった。」
「は?」
「君の瞳に写った紅葉は、とても綺麗だったから。」
そう、恥ずかし気もなく言うと、またもとの姿勢に戻って、今度は満足げな顔をして
街路樹を見つめている。
却って俺のほうが居心地が悪く、どうしたらいいのかわからなくて、とりあえず隣で
同じように木々を見つめた。
「君とこうなってから、僕は、好きなものが増えたんだよ。」
少しの沈黙のあと、三杉が嬉しそうにそう言った。

ああ、やはり似ている。
どんなつまらないものだって、二人で一緒に見れば、好きになる気がする。

二人の時間は、息苦しさを感じるくらい、幸福感で満たされているから。



Fin.



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