番外編『ジョンの気持ち』  岬君が高校生で、南葛市にいる時。

ご主人様は、もう、滅多に私の頭を撫でては下さいません。


ドイツという国に行っているのです。


けれど、私は寂しくありません。


あなたがこうして、時々私に会いに来ては撫でて下さり、散歩へ連れ出して下さるから。


「ご主人がいなくて寂しいだろ?」
そう、あなたは仰います。


私は、寂しくなんかありません。

私は知っているのです。

寂しいのは、きっと、あなたなのだということを。


私は、ご主人様から言われているのです。

あなたの心の支えとなるように、と。

私の温もりは、ご主人様の不在という心の重みを抱える、
あなたの心を少しでも軽く出来ているでしょうか?

私には、ご主人様のような大きくて温かな手がありません。

それが悔しくて仕方ありません。

あの手さえあれば、あなたが時々私の前だけでこっそり、
目から流す、美しいけれど悲しい水を、拭って差し上げることができるのに。


私は、あなたの強さの中の儚さが愛おしいのです。

初めてあなたにお会いした時から。

あなたは大変ご立派になられましたが、あの、心の柔らかい、儚い部分だけは
小さな頃と同じままです。


寂しい時、お辛い時には私の所へ来て下さい。

私は、いつでもここでお待ちしておりますから。


Fin.

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